インプラント周囲炎

1.インプラント周囲炎とは?

(1) ご自身の歯(天然歯)とインプラントの違いは?
(a) 歯と歯ぐき・骨のくっつき方

歯と骨の間には、歯根膜という組織があります。
歯根膜は、簡単に言えば歯に加わった衝撃を和らげる、 クッションのような役割を果たします。
骨の上にある歯ぐき(歯肉)と歯の間には、2種類の構造が存在します。

 

●上皮性付着 : 歯ぐきが歯にへばりついた状態(吸盤でくっついたような状態)。くっつきかたは弱く、容易に剥がれてしまいます。
●結合組織性付着 : 歯と歯ぐきがコラーゲン等の線維により、がっちりくっついた状態。簡単には破壊されません。

(b) インプラントと歯ぐき・骨とのくっつき方

一方、インプラント(現在主流のタイプ)は骨と直接結合します。
また、歯ぐきとインプラントは、上皮がへばりついたようの状態(ゴムで締め付けた状態に近い)で弱くくっついているだけです。

(2) インプラントに『歯周病』のような病気は起こらないのですか?

歯周病は、歯を支える骨が、バイ菌の影響で吸収されて行く病気です。
それでは、インプラントにはその様な病気が起こることはないのでしょうか?
実はインプラントにも同様な病気が存在します。
その名も、『インプラント周囲炎』です。
言葉の通り、インプラントの周囲の歯ぐきや骨が炎症(バイ菌に対する体の防御反応)を起こします。
残念ながら、このインプラント周囲炎に触れているホームページは非常に少ないようです。
したがって、『インプラントは必ず一生ものだ』と思われている方もおられるかもしれませんが、それは誤解です。
長持ちさせるためには、ご自身の歯と同様、あるいはそれ以上に適切な診断・維持管理が必要です。

(3) インプラント周囲炎と歯周病の違いは?

歯周病は、『歯ぐきの病気』です。
主に歯周ポケットと呼ばれる、歯の周りの隙間に存在する歯周病菌が、有害な物質を出し、その影響で歯の周りの骨が吸収されて行きます。
この場合、歯周病菌は骨にまで大量に進入することはありません。

 

一方、インプラント周囲炎には、下記のような特徴があると言われています。

 

・ 歯周病菌と同じ細菌が、炎症の原因となっている。
・ 天然歯の歯周病に比べ、インプラント周囲炎は破壊が著しい。
・ インプラント周囲炎では、人工歯根部と支台部の接合部に強い炎症が起こる。
・ 場合によっては、歯周病菌が骨の中まで入り込む。

 

インプラントは、生体にとってあくまで異物です。
したがって、健全な天然歯に勝るものではありません。
例えば、動物実験で歯とインプラントを同様な不潔な状態(歯垢のたまりやすい食事を与え、歯磨きをしない状態)にしておくと、インプラントの周囲は天然歯より明らかに炎症が強く起こります。

 

歯科先進国のスウェーデンでは、インプラント治療を受けた4人に1人が罹患しているそうです。
スウェーデンではインプラントは喫煙者には行わないなど、適応をよく考えて行っており、歯科医も研修を積んだ上で治療を行っています。
日本では

 

・ 喫煙者にその影響についてに説明せず行ったり、
・ 歯周病を放置したまま行ったり、
・ 日本人がもともと欧米人よりあごの骨がきゃしゃであるという不利な条件
・ 歯科医の技術・知識不足

 

などの理由により、スウェーデンより多くの方がインプラント周囲炎に罹患しているのではないか、そして今後どんどん増えてくるのでは、と危惧されています。

 

健康なインプラントは形状が単純(まん丸)なので、歯磨きなどによる清掃が容易です。
適切な管理さえすれば進行した歯周病の歯を無理に残すより、長持ちする場合もあります。
しかし、一旦インプラント周囲炎にかかり進行し始めると、表面がザラザラの部分に達します。
そうなると、歯科医院でもこびりついた細菌を取り切ることは困難で、確立された治療法は現在のところありません。

 

一方、歯周病が進行してしまった天然歯は、その形状の複雑さ故、歯磨きなどによる細菌の除去が難しく、その進行を食い止めるのは困難です。
しかし、インプラント周囲炎よりは歯科医院での細菌除去は行いやすく、延命治療は可能です。

(4) インプラント周囲炎と歯周病の関係は?

重度歯周病の患者さんにインプラントを行った場合、歯周病になっていない患者さんに行ったときと比べ、明らかに失敗率が多くなる、というデータがあります。
(ある報告によると、インプラント成功率は通常90数%台ですが、歯周病の歯を残したまま行われたインプラントの成功率は70数%台まで下がるそうです。)
これは、天然歯の歯周ポケット内細菌が、インプラントの周囲組織に悪影響を及ぼすことが原因である、と考えられています。

 

一方、歯周病の治療は容易ではなく(歯周病のページ参照)、的確な治療をされずに放置されたまま、インプラントが行われることがあるようです。
それでもインプラント治療を行ってしばらくは、何の自覚症状もなく快適に噛むことが出来ます。
ところが、長期的には問題が起こる場合が多いといわれています。
歯周病が重症になっても自覚症状に乏しいのと同様、インプラント周囲炎も自覚症状が出たときには、大きな問題に発展している可能性があります。

 

インプラント周囲炎の治療は、歯周病の治療より更にやっかいです。
したがって、歯周病の治療を的確に行えない歯科医師がインプラント周囲炎に対応するのは、困難を極めるであろうことが容易に想像できます。

(5) インプラント周囲炎を防ぐには

インプラント周囲炎を防ぐには、下記の項目について実践することが重要です。

 

・ ご自身による、正しい方法で行う、時間をかけた歯磨き
・ 専門家による定期的な徹底清掃
・ 専門家によるかみ合わせの管理
・ ナイトガードの装着

 

これらを行うのは面倒だ、という方にはインプラントはお勧めできません。

(6) インプラント治療は、歯周病治療後に行うべき

先に述べたとおり、天然歯の歯周ポケット内細菌が、インプラントの周囲組織に悪影響を及ぼします。
したがって、インプラント治療を行う前に、歯周病の治療として

 

(1) 歯周初期治療(歯磨き指導と歯石取り)
(2) 歯周内科治療
(3) 歯周外科治療

 

を行うことにより、インプラントの治療成績も向上します。
(当院では少なくとも(1)は必須と考えます。)

2.インプラント周囲炎の治療

(1) インプラント周囲炎の分類と、治療法

インプラント周囲炎は、『CISTの分類』と呼ばれる分類方法により、様々な治療法が推奨されています。
軽度の場合はポケット洗滌など、重症になるにつれて、PMTCや消毒剤による洗滌、抗菌剤の使用、外科手術などが必要となります。
ただ、現在のところ確立された治療法が存在しない、と言うのが現状です。
インプラント周囲炎が進行した場合、インプラントの撤去が必要になる場合もあります。

 

近年歯周病の学会でもインプラント周囲炎治療の演題が多くなり、一部の開業医が試行錯誤しながらノウハウを積み上げてきている段階です。
(残念ながら、大学での研究はあまり進んでいないようです。)
その中でも2名の開業医が、エルビウムヤグ(Er:YAG)レーザーを使用したり、アミノ酸の粉を吹き付けたり、光殺菌を使用したり、場合によっては内視鏡まで使っての治療を試み、一定の成果をあげておられるようです。

(2) インプラント周囲炎を防ぐために・・・さくら総合歯科の工夫

インプラントを長持ちさせるためには、その方が何故歯を失ったか原因を探り、もし歯周病で歯を失ったのであるならば、歯周病の治療も並行して(出来れば先に)行うことが重要です。
残ったご自身の歯をきちんと診察・治療せず、さっさとインプラントを行うのは、当院では論外だと考えています。
また、ご自身の歯が歯周病になったのは、その歯に歯周病が進行しやすい要因があったからに他なりません。
そこに何の工夫もなくインプラントを植えたとしても、同じ末路をたどる可能性が高くなるのは、素人の方が考えても想像がつくのではないでしょうか?
したがって、当院ではインプラントを行う際に、インプラントが長持ちしやすくなるような環境を整える手術も、ご提案させていただく場合があります。

 

さくら総合歯科では、歯周病の治療に関心を示さない患者さんには、(その方の将来を考え)インプラントをあえてお勧めしない場合があります。

 

逆に、当院で治療をされた重症歯周病患者さんは、当院の方針をご理解いただいた上でインプラントを行っておりますので、問題なく良好な状態を保っておられます。
インプラントは“魔法の治療”ではありませんが、正しく行えば快適な食生活を提供できる、素晴らしい治療法です。

サブメニュー