あなたにとって、よい歯医者とは

良い歯医者の条件は、患者さんのニーズによって様々です。
さくら総合歯科では、患者さんのお口の健康、楽しい食生活を如何に守るか、ということにこだわって、診療を行っています。
しかし、すべての方がその様な診療を望んでいるとは限りません。
本項では、当院についてではなく、一般論としての『良い歯医者』の選び方、について御説明いたします。

1.患者さんの側から見た『良い歯医者』

患者さんが一般的に『良い歯医者』と評価するのは

 

(1) 良く話を聞いてくれる
(2) 十分な説明をしてくれる
(3) 治療が痛くない
(4) 治療が短時間・短期間に終わる
(5) 待ち時間が短い
(6) 治療費が安い
(7) 治療した後に痛みがない
(8) キャンセルしても、文句を言われない
(9) 自分の言うとおり治療してくれる
(10) 面倒なことを勧めない(歯磨き指導など)

2.歯科医の側から見た『良い歯医者』

(1) 患者さんの話を充分に聞く
(2) 十分に説明をする
(3) 治療が痛くないよう心懸ける
(4) 治療時間は時に長くかかる、治療は場合によっては長期にわたる
(5) 待ち時間が時に長くなる
(6) 保険診療で充分な治療ができない場合、自費診療で治療を行う
(7) 患者さんのお口の健康を真剣に考えた場合、治療後に痛みが出る場合がある
(8) キャンセルしないよう、ご協力をお願いする
(9) 患者さんのいいなりにならず、本当に必要なことをお勧めする
(10) 歯磨き指導の力を入れる

3.患者さん側と、歯科医側の考え方・意識のギャップと現実

上の1.と2.を比較すると、(1)〜(3)はほぼ一致します。
ただ、(4)〜(10)は一致せず、逆に正反対の場合があります。

(1)〜(2) インフォームドコンセント

歯科医院ではお口の治療をする関係上、かつてはあまり長話をせず、最低限の会話しか交わされないことが多かったのですが、近年は患者さんの訴えを良く伺った上で、十分に説明する医院が増えています。
ただ、その説明内容が必ずしも正しいとは限らないので、注意が必要です。

(3) 痛くない治療

現在、殆どの場合麻酔が良く効きますので、痛みのない治療は実現可能です。
麻酔そのものも、まず歯ぐきの表面をしびれさせる『表面麻酔薬』を塗布し、その数分後に針を刺せば殆ど痛みを感じずに行うことが可能です。
麻酔をした後も、5〜10分待つことにより、麻酔がより確実に効く容易なります。
ただし、痛くない治療を実現するためには、治療時間が長くかかります。

(4) 治療時間について

当院で治療を受けていただくと、治療時間の長さに驚かれる方が多いようです。
治療に時間をかけることは、医院側にとって経営的メリットはありません。
何故なら、保険診療は治療の内容は全く考慮せず、単純な出来高払い制になっているからです。
むしろ、時間をかければ医院にとっては経費の増加になります。
それでも治療に時間をかけるのは、もちろん理由があります。

 

先進諸国で日本のように一日あたりの患者さんの数が多いのは、日本くらいではないでしょうか?
他の国では歯科治療は、時間をかけて治療しています。
私はアメリカの専門医が前歯に白い詰め物をするのを見学したことがありますが、40分近くかけて治療していました。しかも無駄に時間をかけているのではありません。
一つ一つのステップを確実に行ってゆけば、本来はそのくらいの時間がかかるものなのです。
ただし、アメリカの治療費は、日本よりはるかに高いのでそれでも充分に成り立ちます。

 

では、日本ではどうでしょうか?
皆様はそのくらい時間をかけて前歯に詰め物を行う処置を受けられたことはありますか?
治療時観が長いと『腕がよい』という幻想がありますが、もちろん全く同じ工程で同じ事を行い、なおかつ同じ結果が得られるのであれば、短時間で綺麗に・正確にできる歯科医が『腕がよい』ことになります。
しかし、実際は治療時観の短い場合は、多くの場合工程の省略によるものであり、むしろ時間をかけて治療する歯科医の方が『腕がよい』場合が多いのです。

(5) 待ち時間

治療を受ける側にとっては、待ち時間は短い方が良いとお思いでしょう。
私(さくら総合歯科院長)も、他科を受診する場合、できれば待ち時間は短くあって欲しいと思います。
しかし、私は病院・医院で長く待っても、『それはしようがないことだ』と思っていますので、たとえ予約制の病院であっても不満には思いません。
何故かと言えば、『医療の特殊性』を理解しているからです。

 

我々医療従事者は、患者さんの『体』を扱います。
体は個々様々な特性を有しており、すべての方に同じ時間で同じ治療をできることはありません。
例えば、歯を削る場合を考えてみましょう。
同じ場所の、同じ形・大きさの歯を削る場合でも、その方により削るのにかかる時間は下記の要因に大きく左右されます。

 

・歯の硬さは個人差が大きき、硬い方はやわらかい方に比べて数倍の時間を要する場合があります。
・水や唾液をためる事がなかなかできない方は、上手くためることができる方に比べて処置の中断が多くなり、結果的に治療時間が長くなります。
・唾液の多い方、歯磨きの不十分な方は型を1回で綺麗に取れない場合も多く、時間がかかる場合が多くなります。
・口の開き方、あごの大きさには個人差がありますので、特に奥の歯の治療をするときは削るのに要する時間が大きく変わります。
・舌の大きさ、ほっぺたの伸び具合は個人差が大きく、削るのに妨げになる場合があり、このことによっても削る時間は大きく変わります。
(特に舌の力は大変強いので、削る場合大変気を遣います。)

 

これはあくまで一例ですが、同じ治療を行う場合でも、個人個人によってかかる時間は大きく変わり、これを同じ時間で済ませようとすると、当然工程の省略や手抜きが必要になります。
それでは一人あたりの予約時間をもっと長く余裕を持って取れば良いではないか、とお思いの方も多いでしょう。
しかし、日本の歯科医療費は先進国のなかでもずば抜けて低く(そのおかげで誰でも最低限の治療は受けられるのです)、一日あたりの患者さん数を減らすことは困難です。((6)治療費の項参照)

(6) 治療費

日本の歯科治療費(保険診療)は、主要先進国の中でずば抜けて安く設定されています。
日本では、保険診療の多くはまじめに治療すると採算が合わない、という現実があります。
たとえば歯の神経をとる治療(根管治療といいます)の治療費を比較してみましょう。

 

アメリカ 10万円強
イギリス 9万円強
カナダ 5万円強
フランス 4万円強
スイス 4万円弱
ドイツ 約1万5千円
日本 6千円弱

 

日本の治療費だけ一桁違うことでわかるとおり、日本の歯科治療費は、諸先進国に比べて圧倒的に安いことがおわかりになるでしょう。
日本の歯科保険制度は、ドイツを参考に制定されたと言われています。
ドイツの歯科治療は、日本と同じように自費診療と保険診療が存在し、保険診療は最低限の治療を保証、より高度な治療は自費診療で行われています。
しかし近年、ドイツの歯科医院は経営状態が全体的に悪化してきていることが問題となっています。

 

それでは、そのドイツの治療費の1/3程度の日本の治療費で、質の高い治療が受けられるのでしょうか?
残念ながら、神経の治療は丁寧に行っても手抜きをしても、術後の痛みに大差がない場合が多く、手抜き治療による問題が自覚できるようになるのには、場合によっては数十年を要する場合さえあります。
その頃には歯科医に説明されない限りは、以前の治療との関連性を、患者さんご自身で自覚することは困難で、結局自分の歯が治療により失われたことに気がつきません。
その事が、患者さんが本当によい歯科医を選ぶことが難しい最大の理由と言えます。
また、治療する側にとっても、良い治療を行うには時間がかかることを、ご理解いただくのが難しい理由の一つとなっています。

歯科 健康保険取り扱い看板

さくら総合歯科は保険診療中心の歯科医院ですので、神経の治療は保険診療となります。
保険診療としては、可能な限り丁寧な治療をしていると自負しています。

 

日本でも、質の高い治療を維持するため、自費専門や、自費診療中心の歯科医院が、都市部に多数存在します。
(ただし、残念ながら、自費専門でも質の高くない治療を行っている医院があるようです。)
右写真は大阪の歯科医院の看板です。
大阪では、多くの場合、歯科医院の看板に『健康保険取り扱い』の文字が見られます。
このことは、逆に地方ではあまり存在しない自費診療専門の歯科医院が多数存在していることを意味します。

(7) 治療後の痛み

皆様は、治療後に痛みの出ないのが『よい歯医者』、と思っておられることでしょう。
確かに、止めることの出来る痛みを止めることが出来ない歯医者は、良い歯医者とは言えないかも知れません。
それでは、逆もまた真なり、かというと、実はそうとは限らないのです。

 

例えば、いわゆる歯の神経(歯髄)の近くまで達したむし歯があったとします。
この場合、さっさと神経(歯髄)を取ってしまえば、強い痛みが出ることは殆どありません。
(例外はあります。)
しかし、歯の神経は歯の修復をするという、大変大切な働きを持っています。
神経を取った瞬間から、この修復能力は『ゼロ』になります。
その結果、遠い将来歯が真っ二つに割れる可能性が高くなります(歯根破折)。
歯根破折が起こった歯は、救うことは出来ず抜歯となります。

 

この恐ろしい歯根破折を防ぐためには、神経を取らずに保存しなければなりません。
それでは、やみくもに神経(歯髄)を残せばよいのかというと、そうでもありません。
神経にバイ菌が入り込んでしまうと、神経は徐々に(あるいは急に)死んでしまい、今度は別の病気(根尖性歯周組織炎など)になってしまいます。
もし、神経(歯髄)ぎりぎりのむし歯がある歯を長持ちさせたければ、なるべく神経(歯髄)を残せるように工夫し、しばらくの間痛みが出るか否かを経過観察します。
幸いにも痛みが出なければ、そのまま神経を保存できます。
ところが、不幸にも痛みが出てしまった場合、その痛みは時にかなり強い痛みとなることがあります。
そのため、事前に十分な説明をしておかないと、患者さんの歯の将来を本当に考えるからこそ痛みが出てしまったのに、治療に問題があったから痛みが出た、と勘違いされてしまいます。

 

更に余談ですが、痛みが出るか様子を見るための治療の治療費は大変安く、神経を取る治療費(先に述べた様に諸外国に比べて格段に安いのですが)の方が高いので、神経をさっさと取ってしまった方が、

 

・ 説明する手間が省ける
・ 痛みが出ず信頼を得やすい

 

ことと合わせて、医院側にとってはメリットが多くなります。

 

これはあくまで一例ですが、痛みの出ないのがよい歯医者、ではなく、たとえ痛みが出る可能性があっても、将来を見越した治療を行い、それを丁寧に説明する歯医者が、本当に良い歯医者なのです。

(8) 予約のキャンセル

日本の歯科治療費は、先に述べたとおり諸先進国に比べて極端に安く、その治療費の範囲内でまじめに治療すると非採算となる治療が多いことは、医療経済学の専門家の意見によっても明かです。
したがって、治療費の質を保ちつつ経営を安定化させるためには、患者さんのご協力が欠かせません。

 

歯科医院は、他科の開業医より人件費率が高いと言われており、キャンセルをされた場合当然ながらその時間帯は大幅な赤字となります。
それを埋め合わせするためには、何らかの妥協をせざるを得なくなります。
当院では妥協を極力排除する代わりに、 患者さんにキャンセルをされない様にお願いしています。

(9) 患者さんのいいなりになる

日本の歯科医院数は、現在コンビニよりも多く、過当競争時代に突入しています。
競争することはよいことではありますが、残念ながら患者さんに気に入られるようにするため、患者さんにうけの良い経営方針をとる歯科医院が、増えてきています。
具体的には

 

・ 待ち時間の少ない歯科医院にする。
・ 歯磨きの指導をせず、定期的に歯のクリーニングさえすれば歯は長持ちする。
・ 初診の患者さんが希望されれば、いかなる場合も早い時点で、しかも患者さんのご都合の良いときに治療する。

 

などの方法で、患者さんを増やしているようです。
それでは、上記事例について、簡単に説明させていただきます。

イ) 待ち時間

上記(5)をご参照下さい。
待ち時間を少なくするためには、どうしても治療の質を落とさざるを得なくなります。

ロ) 歯磨き指導無しのクリーニング

クリーニング・メインテナンスだけで、歯を守ることが出来るのでしょうか?

ハ) 希望通りに時間に診察する

歯科治療は、(当院で治療を受けていただければわかると思いますが)本来時間がかかります。
したがって、丁寧に診察している歯科医院では、一時間あたり患者さんを多く診ていなくても、待ち時間が発生します。
ましてや、そこに急患の治療が割り込む形で入ってしまうと、元々ご予約いただいた患者さんの治療の質を落とすか、待ち時間が大変長くなってしまうか、のどちらかになります。
患者さんうけを良くするため、急患やご予約の患者さんの待ち時間が少なくなるようにしようとすると、必然的に治療の質を落とさざるを得ません。
しかし、残念ながら、その方が患者さんが喜ばれることが多い、という現実があり、経営を維持するために、その様な方針をとる歯科医院が増えてきています。

 

ネットの口コミ等で、『某歯科医院はすぐに診てくれなかったから悪い歯医者だ』との書き込みを散見します。
多くの場合、その様な書き込みをされる方は、若年者だと思われます。
若年者は噛むことで本当に困ることは殆どないので、丁寧な治療を希望される方は残念ながら少なく、その必要性も感じておられない場合が殆どです。
しかし、急患をすぐに診ないのは、むしろ良心的な治療をしている歯科医院が多いと思われます。

 

ただ、当院でも、腫れたり強い痛みがある方など、緊急を要する場合は当日に診療いたします。
その場合、申し訳ないのですが、上記理由により待ち時間が長くなることを説明し、ご理解をいただくことが前提となります。
また、キャンセル等で予約にたまたま空きがある場合は、どのような方でも診察させていただく場合があります。

(10) 歯磨きの指導

歯科業界では、『良い歯医者は歯磨きの指導に熱心』ということが常識となっています。
歯磨きの話を殆どせず、この治療をすれば一生持つ、という説明をして高額の治療を勧める医院もあると聞きますが、そんな治療は残念ながら存在しません。

 

歯磨きは実は大変難しく、本当に歯の周囲に付いているバイ菌を大幅に除去するには、大変な技術と時間を要します。
台所を例に取れば、皆様は歯磨きを「皿洗い」程度に考えてみえると思いますが、実は排水口の奥深くにあるパイプを磨くのと、同じくらいの手間がかかります。
毎日皿洗いをするのは、面倒ですが何とか許容できると思います。
しかし、毎日排水口以降のパイプ掃除をする必要がある、といわれると、うんざりするかも知れません。
歯磨きをみなさまにお勧めするのは、このパイプ掃除と同じような手間のかかることをお勧めすることになります。

 

当然、お口の健康にあまり関心をお持ちでない方は、そんな歯科医院から離れて行きます。
そこが、「患者さんのお口の健康を本当に考える良い歯医者」が大衆受けしにくい原因となります。

4.価値観で変わる『良い歯医者』

一生おいしく食べたい、と真剣に考えている患者さんにとっては、『歯科医の側から見た良い歯医者』が本当に良いい歯医者となります。
とにかく早い、安い、無理をきいてくれる方がよい、という方にとっては、『患者さん側から見た良い歯医者』の方が良い歯医者になるでしょう。

 

結局、良い歯医者とは、その方の価値観によって大きく変わり、患者さんのためになるとは決して言えない治療でも、ご本人がそれで満足されるのであれば、別に問題ないのではないでしょうか?

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