マイナス2歳からの予防歯科

マイナス2歳とは

ここでいう“マイナス2歳”とは、結婚前 または結婚して妊娠する前のことを指しています。
このサイトは「おとな編」ですので、ここでは成人の予防を中心に紹介しています。
そして、なぜ大人になってからでは遅いのか、「そんなに前から何をする必要があるのか」について、本ページの途中に概要を記載しています。
大人の方自身には関係のない話ですが、お子様やお孫さんがおられる方は、是非ご一読いただき、ご興味を持たれたら
さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック 妊婦・赤ちゃん・こども編 のサイト
をご覧下さい。

1.私が何故予防に力を入れるようになったのでしょうか?

(1)むし歯は治らない

皆様は、むし歯になっても治療すれば、元通りの強さになると思っていませんか?

実は、病気(むし歯・歯周病)になった歯をどんなに頑張って高度な技術を用いて治療したとしても、治療の必要のない未処置歯より、寿命が縮まる可能性が高くなります。
そして、治療を繰り返せば繰り返すほど、歯の寿命は短くなっていきます。

 

したがって、

 

「痛みが出たら治せばいいや」
「とれたら付け直してもらったり、やり直せばいいや」

 

ということをしていると、年齢が高くなったときに一気に歯を失うことにつながります。

(2)今の日本の医療制度は、今のままでは存続困難

では、

 

「歳をとって歯が抜けたら、入れ歯やインプラント・ブリッジを入れればいいや」

 

と考えるかもしれません。
インプラントが保険診療で出来ないのはご存じの方が多いと思いますが、実は、将来的に入れ歯やブリッジは保険診療対象外になることが予測されています。
なぜなら、令和3年時点で国民1人あたりの借金額は 987万円、今後さらに増加する可能性が高く、これを返済していかなければなりません。
しかし、少子高齢化によりこの借金を順調に返済することは、現実的に困難と思われます。
即ち、国民の健康保険料と税金でまかなわれている健康保険は、自己負担率の大幅な上昇や現在より対象となる病気を減らしたりすることが避けられません。

 

したがって、高齢になったときに健康な生活を営むためには、若いうちから「病気になりにくい生活習慣」を身につけ、予防に取り組んでおくことが極めて重要なのです。

(3)歯科医師としての経験から学んだこと

私を含め、患者さんの歯を長持ちさせることを第一に考えている歯科医師は、若い頃は色々な情報を集め、様々な方法で時間をかけて丁寧に治療しています。
ところが、『完璧だ!』と思っても、長い年月を経過すると、少なからず様々な問題に直面します。
噛む力は皆様の想像以上に強く(数十s)、しかもアイスクリームから熱いお茶まで、様々な温度のものがお口の中に入ってきます。
お口の中は、実は大変過酷な環境なのです。
歯は使うもので、飾り物ではありません。
例えば、電化製品・自動車・家など、使用する物は必ず経年変化による劣化が起こります。
ましてや過酷な状況で一日中酷使される歯をどんなに丁寧に治療したとしても、一生問題が起こらない状態にするのは困難です。

 

たとえば、こだわって行う自費診療に於いても、詰め物・被せ物と歯の間には20μ〜30μの段差が出来ます。
通常の診療(保険診療やこだわらない自費診療)では200〜300μ以上の段差が生じます。
代表的むし歯菌であるミュータンス菌の大きさが1μ前後であることを考えると、被せ物や詰め物の辺縁にはむし歯菌がたまりやすくなり、その結果むし歯になりやすくなります。
このように人工物の辺縁に出来るむし歯を「二次う蝕」と呼びます。

 

歯のかぶせもの・ブリッジ・インプラント等は、広い意味の人工臓器です。
他の部位の人工臓器で自分の体と同等の性能を発揮できるものは、現在のところ存在しません。

 

熱心に治療した歯科医であるほど治療の限界を感じ、予防に力を入れるようになります。
私もその一人です。

2.メディカルトリートメントモデル(MTM)

(1) メディカルトリートメントモデルとは?

メディカルトリートメントモデル(MTM)とは、まずむし歯や歯周病のリスク評価を行い、個々の患者さんに合わせた予防プログラムを立案した後、できる限り侵襲の少ない治療などを行い、その後定期的なメインテナンスや歯周病継続治療に至るまでの流れのことを言います。

 

ボー・クラッセ先生が提唱し、日本では日吉歯科診療所(山形県酒田市)の熊谷崇先生が推奨する考え方で、従来外科系の仕事であった歯科医療を、内科的な業務に変えていこうとする考え方です。

 

(2) 四日市さくら総合歯科でのメディカルトリートメントモデルの流れ

 

以上の項目を、7〜10回程度ご来院いただいた上で行います。
検査の結果、虫歯のなかった方、歯周病が軽症の方は、歯周病の定期的な管理に移行します。
歯周病の定期的な管理を、SPT(Supportive Periodontal Therapy)と呼びます。
これは歯周病の進行をなるべく遅らせる目的で行うもので、歯周病でない方に行う「メインテナンス」とは、趣旨が異なります。
SPTはむし歯目的で行うものではありません。
むし歯予防も同時に行いたい方は、3DSとよばれる自費診療で対応します。

 

ある程度以上進んだむし歯や歯周病の治療は、主に時間をかけられる、より精度の高い保険外診療で対応します。

3.予防の対象となる病気

(1) 成人で予防の対象となるのは?

歯を失う三大原因は、

 

第1位が歯周病
第2位がむし歯
第3位が歯の破折(根まで割れてしまう)

 

です。

したがって、この3つの病気に対する予防が必要になります。
歯周病とむし歯の予防には、多くの場合関連性があります。
歯の破折は別の方法が必要になります。

 

また、歯ならび・かみ合わせの異常が、40歳を超えた頃から歯周病の急速進行の要因になります。
したがって、歯を失わないようにするためには、歯ならびかみ合わせが悪くならないよう、予防する必要があります。

 

(2)マイナス2歳から予防する対象は?

マイナス2歳からの予防の対象となるのは、

 

・ 最も必要なのが歯ならび・かみ合わせ異常の予防
むし歯予防
歯肉炎の予防

 

の3つです。
歯ならびやかみ合わせが悪いと、むし歯ができやすくなったり、中年以降に歯周病の急速な進行の要因となります。
歯ならびやかみ合わせの予防は、乳幼児期にしか出来ません。
したがって、生まれる前から何に気をつけていかなければならないかを学んでいただき、その知識に基づいて生まれた時から実践していただくことが必要になります。

 

マイナス2歳からの予防については、
さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック 妊婦・赤ちゃん・こども編 HP
をご覧下さい。

4.予防はマイナス2歳から

なぜマイナス2歳から?

歯ならび・かみ合わせ異常の予防にとって・・・

予防が最も難しいのが歯ならび・かみ合わせ。
なぜ歯ならびなどに問題が起こるのか、正確な原因は未だ究明されていません。
恐らく、多くの要因が複雑に絡み合っているため、原因の解明はかなり先になると思われます。
しかし、臨床家は手をこまねいているわけには行きません。
目の前の子どもたちはどんどん成長していきます。
少しでも早く、手を打たねばなりません。
そう考えている小児歯科医はたくさんおり、その先生方個々の意見が今、徐々に集約されてきました。
その結果、

 

・ 妊婦の骨盤の変化や姿勢の影響で、子宮が影響を受け、その結果胎児が何らかの影響を受けている。
・ 妊婦の骨盤は、妊娠前から調整するべきではないか。
・ 出産(分娩)の仕方によっても影響を受けている。
・ 母乳の飲み方の影響を極めて強く受ける。
・ 近年切らない傾向にある“舌小帯”を必要があれば切った方が良いのではないか。
・ 離乳食の与え方の影響を受ける。
・ 姿勢に影響を与える足の問題の影響を受ける。
・ 生活習慣の影響を受ける。
・ 軟食の影響を受ける。

 

など、妊娠前から対策が必要なことが原因としてあげられています。
但し、妊婦の骨盤や子宮の形の影響については、産科の医師はその関連性を否定する場合が多く、妊婦さんと直接接する機会の多い助産師のなかに、関連性を訴える方が多いようです。

 

何れにしろ、歯ならびかみ合わせの異常を予防するためには、妊娠する前である“マイナス2歳”からの対応が必要なのです。

むし歯予防にとって・・・

むし歯予防は、実は簡単です。
なぜなら、出生後の食事に気をつけていれば、そう簡単にはむし歯になりません。
しかも近年、歯磨き粉には当たり前のようにフッ素が含まれており、日本における12歳児のむし歯は、かなり少なくなりました。

とはいえ、今でもむし歯になる子どもは一定数存在します。
中には、
「一生懸命仕上げ磨きをしているのにむし歯ができてしまう」
と嘆く母親もいます。
そういうお子さんのお口の中を観察すると、清涼飲料水の多飲や砂糖を含む間食をしているお子さんであることがわかります。
甘いものには依存性があり、いったん甘いものを食べる癖をつけると、やめさせるのは至難の業です。
そこでそういう癖をつけさせないための保護者教育が必要で、それはつわりなどで大変な妊娠中からではなく、妊娠前から教育することが必要なのです。

歯周病予防にとって・・・

歯周病は歯周病菌によって起こる病気です。
しかし、それ以上に生活習慣病的側面が強く、また、全身の状態の影響を受ける病気です。
近年妊娠時から生後早期の生活が、生まれてきたこどもの生活習慣病のかかりやすさに影響することがわかってきました。
生活習慣病は、直接的・間接的に歯周病の促進要因となります。

 

また、歯並びかみ合わせが悪いと、歯周病が急速に進行する場合が多く、乳幼児〜学童期における「歯ならび・かみ合わせ異常の予防」は将来の歯周病予防にとって極めて重要なのです。
したがって、歯周病に関しても妊娠前からの教育が必要です。

 

マイナス2歳から必要なこと

マイナス2歳からの予防の詳細については、
さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック 妊婦・赤ちゃん・こども編
をご覧下さい。
より詳細に記載してあります。

 

(a) むし歯の予防

むし歯菌や歯周病菌は家族に感染することがあるといわれていますので、場合によってはご本人だけではなく、家族と一緒に予防や治療をした方がよい場合もあります。

 

むし歯菌は、歯がなければお口の中に定着することはできません。
したがって、歯がはえる前のお子様には、むし歯菌は定着しないのです。
生後19ヶ月から31ヶ月の間にお母さんのお口の中から移り、定着することがわかっています。

 

この時期のことを「感染の窓」と呼び、その期間に母親からのむし歯菌感染を防ぐことにより、お子様のお口の中に長期間むし歯が少ない状態を実現できると言われています。
但し、一般的に言われているような食器の共用(箸やスプーンの使い回し)・口移しの制限では、むし歯菌の母子感染は防ぐことが出来ません。

 

この件について更に詳しくお知りになりたい方は、さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック 妊婦・赤ちゃん・こども編HPをご覧下さい。

 

(b)歯の破折の予防

歯を失う原因として近年侮れなくなってきているのが、歯が折れてしまう「歯牙破折」です。
歯の頭の部分(元々歯ぐきから顔を出している部分)だけが割れる歯冠破折と、歯の根(歯ぐきの下に隠れている見えない部分)まで割れる歯根破折があります。

 

歯冠破折の多くは再治療が可能ですが、歯根破折の多くは抜歯しか選択枝がありません。
(割れた歯を抜いて接着剤でくっつけ、元の位置に戻して残すことが出来ますが、無理して残して前後の歯に悪影響を及ぼしたり、病巣感染の場となりそれが全身に悪影響を及ぼすことがわかっており、お勧めできません。)

 

歯の破折はある日突然起こります。
まじめに歯科治療に取り組んでいる歯科医師にとって、最も対処法・予防の選択肢が少なく、悩まされるのが歯根破折です。

 

(イ)歯の破折の大敵は歯の神経を取ること

割れてしまう歯は、ほとんどが神経(歯髄)を取ってある「無髄歯」です。
したがって、神経を取らないようにすることこそが、歯の破折防止のにとって最良の対処法と言えます。
そのために、むし歯の予防が必要となります。
(早期発見・早期治療では限界があります。)
深いむし歯でも歯の神経に大量の細菌が侵入する前なら、ドックベストセメントを使用することにより、歯の神経を温存できる場合があります。

(ロ)もう一つの原因は、歯ぎしり

それでは、硬い物を食べることを避けたら、歯の破折は避けられるのでしょうか?
実は、歯が割れるのは、ほとんどの場合就寝時の歯ぎしり・くいしばりが原因です。
「自分は歯ぎしりはしていない」と思っておられる方でも、実はほぼ全員が歯ぎしりをしています。
(お口の中を見せながら説明すると、皆様納得されます。)
つまり、歯ぎしりがなるべく減るような生活習慣を心懸けた上で、“ナイトガード”とよばれる装置を就寝時に装着することが必要です。
ナイトガードは、硬い材質は副作用があることから、当院では柔らかめの材料を使用して作製しています。

(c) 歯周病の予防

歯周病菌の感染は、乳歯が永久歯に生え替わる頃に感染する場合がありますが、夫婦間で感染することも多いと言われています。
ある大学の先生は、「若い夫婦のお口の中の細菌は似通っているが、年齢が高くなるに従い異なる細菌が存在するようになる」と言っておられました。

 

お子様のおられる保護者(又は同居している祖父母)、結婚している夫婦はあらかじめ歯周病細菌検査を行い、もし悪玉菌が多く存在するようなら、

 

・ 歯磨きなどのセルフケア
・ 特殊な乳酸菌を使用したプロバイオティクス
・ 歯周内科などのアンチバイオティクス

 

などにより、歯周病菌を減少させ、その状態を維持させるべきであるとさくら総合歯科院長は考えています。

(d) 歯ならび・かみ合わせ異常の予防

成長期の歯ならび・かみ合わせ異常の原因は

 

・ 口呼吸
・ 舌の機能異常
・ 噛む回数がすくない

 

ことが主な原因です。

 

この件については、さくら総合歯科ベビーキッズ歯ならびクリニック 妊婦・赤ちゃん・こども編HP または 健康的こども矯正のサイトをご覧ください。

 

唇や舌の機能は乳幼児期に確立されるべきものですが、近年子育ての傾向がかわり、早期に断乳したり離乳食の与え方に問題があることが唇・舌の機能異常の原因ではないかと推測されています。
この件に関しては、妊婦・赤ちゃん・こども編HP 赤ちゃん歯科 をご覧ください。

 

一方、成長が止まってからの歯ならび・かみ合わせ異常の主な原因は

 

態癖(たいへき)
・ 親知らずの影響

 

です。

 

(イ) 態癖

・ 横向き寝・うつ伏せ寝
・ 頬杖
・ 唇のくせ(巻き込み・すぼめるなど)

 

により、歯は少しずつ移動します。
歯は外力により移動しますが、舌や唇の力は歯が動く力よりはるかに強く、その結果歯ならびやかみ合わせが崩れます。

 

また、頭の重さは成人で5s程度あり、横向き寝やうつ伏せ寝・頬杖により歯にかなりの力がかかるため、歯は移動します。
有名な内科医が「うつ伏せ寝健康法」を推奨しておられますが、歯科知識をお持ちの内科医は、それがとんでもないことであると言っておられます。

 

かみ合わせが崩れると、

 

・ 顔の左右非対称化
・ えらかはる
・ 目がこわばり、小さくなる
・ 鼻の下からあごまでの距離が短くなる
・ 顔色が悪くなる
・ 姿勢が悪くなる
・ 頭痛・肩こり・腰痛が起こる

 

など、様々な問題が起こります。

 

(ロ) 親知らずの影響

親知らずは成人する前後に根が成長しますが、現代人は顎が小さいためまっすぐはえることが出来ず、歯根が完成するまで前の歯を前方に押します。
その結果、前歯などの歯ならびが悪くなります。

5.むし歯と歯周病の予防

先ほど説明したとおり、歯を失う原因は、第一位が歯周病、次いでむし歯となります。

 

むし歯はよほどほったらかしにしない限り、すぐに抜歯の原因になることはなく、先に述べたように繰り返し治療することにより抜歯に至ります。
したがって、いかに若いときにむし歯にならないか、が重要です。
ところが、お子様は後述する理由によりむし歯になりやすく、予防が重要となります。

 

未成年が歯周病にかかることは稀で、40才くらいから急増します。しかも自覚症状が出た頃には多くの場合その歯に関しては手遅れで、他の歯も多くは中等度から重症になっている場合が多く、治療により長持ちする状態にするためには時間と費用を要するようになってしまいます。

したがって、未成年者(小児)の予防はむし歯を対象とし、成人の予防は歯周病を第1の対象・むし歯を第2の対象とします。
また、高齢者はその両方を対象とします。

 

(1)予防の手順

予防の手順は、下の図の手順で行います。

 

予防処置は、歯科医師と歯科衛生士が協働して行います。

 

 

むし歯予防に関係のある項目には、項目の右に(C)、歯周予防に関係のある項目の右に(P)、両方に関係のある項目には、項目の右に(C・P)と書いてあります。

 

(2)唾液検査(むし歯のリスクテスト)(C)

むし歯の発症には、下の図のように、

 

・むし歯菌の数
・歯を守る力
・食事の習慣

 

の3つの要素が関係しています。

むし歯のリスクテストは、この3要素について調べます。

 

唾液検査で調べる項目は

 

・ミュータンス菌の測定
・ラクトバチラス菌の測定
・唾液緩衝能の測定
・唾液の量
・食習慣の調査

 

の5項目について調べます。
食習慣についてはあとの項目で説明します。

 

これらの結果に問題がある場合は、各々その対策についてご説明致します。

 

より詳しい情報は、唾液検査のページもご覧下さい。

 

ミュータンス菌、ラクトバチラス菌とは、むし歯の原因菌の中でも代表的な細菌で、これらの比率が高いとむし歯になる危険性(リスク)が高くなります。
また、現在では口腔内にいつも存在する菌(常在菌)のバランスが、糖を頻繁に摂取したり、唾液の分泌が減ったりすることで、お口の中が常在菌により酸性に傾き、酸に弱い菌が減ることで、酸に強いむし歯の原因菌がどんどん増えてしまい、その結果むし歯を引き起こすと考えられています(生態学的プラーク仮説)。

 

一方、唾液には初期のむし歯を修復する作用があり、それを唾液緩衝能と呼びます。

 

むし歯は、むし歯菌によって作られた酸が歯を溶かすこと(脱灰:だっかい)によって起こりますが、初期の段階では溶かされた部分が唾液の中の成分によって修復(再石灰化)されます。

 

人間が元々持っているこの修復機能を最大限に発揮させることにより、むし歯の発生を極力抑える用にするのが『むし歯予防』の考え方です。

 

 

下の図は、唾液緩衝能・唾液分泌量が歯垢のpHにどのような影響を与えるかを示したグラフです。

 

 

唾液緩衝能が高い方、唾液の多く出る方は短時間で中性に戻るのに対し、唾液緩衝能が低い方、唾液の少ない方は歯垢のPHが中性に戻るのにかなり時間がかかっています。

 

中性に戻るのに時間がかかると、長い時間歯の成分(カルシウムやリン)が溶け続け、やがて穴があいてむし歯ができてしまいます。

 

唾液は年を取ると少なくなる場合が多く、しかも生活習慣病の薬や睡眠薬は唾液を少なくする副作用があるので、高齢になると急激にむし歯が増える場合があります。
また、唾液の量が減少すると、口臭が強くなります。

コラム. むし歯の原因となる細菌について

むし歯を引き起こす細菌は、連鎖球菌や乳酸桿菌と呼ばれる細菌です。

 

代表的な細菌は、

 

・ Streptococcus mutans(ミュータンスレンサ球菌)
・ Streptococcus sobrinus
・ Lactobacillus(乳酸桿菌)

 

の3つです。

 

その中で最も重要視されているのがミュータンスレンサ菌と乳酸桿菌です。

 

因みにミュータンス群と呼ばれる細菌は7種類存在しますが、その中で人間のお口の中に存在するのはS.mutans と S.sobrinus で、何れもむし歯の原因となります。

 

S.mutans は重要なむし歯原因菌といわれています。
この菌は、砂糖から水に溶けないどろどろの物質を作り出し、それにより歯にこびりつきます。
そして、糖分などを原料として強烈な酸を作り出し、歯を溶かしてむし歯を作ります。

 

S.sobrinus はむし歯の20%程度に存在し、S.mutans 単独によるむし歯より、重症になりやすいといわれています。
近年、S.mutansより酸を産生する能力や耐酸性、むし歯の誘発能などがより強いことが報告されいます。

 

Lactobacillus菌自体は歯にくっつく能力はありませんが、ある程度むし歯が進行するとむし歯の穴に入り込み、そこで強烈な酸を作り出しむし歯を進行させると言われています。

 

当院で行うむし歯のリスクテストでは、ミュータンスレンサ球菌と乳酸桿菌を調べますが、更に詳しく調べたい方にはPCR法と呼ばれる高精度な方法で、ミュータンスレンサ球菌・ソブリヌスレンサ球菌・乳酸桿菌の3菌がお口の中にどのくらい存在するか正確に計測することも可能です。

 

(3)食生活指導・歯磨き指導(C・P)

(a) 食生活指導
(イ)むし歯予防のための食生活

むし歯になりにくい食事のとり方の指導をします。
単に中年までのむし歯の予防だけを考えた場合、長期にわたって継続できる習慣の獲得が大切なので、「・・を食べたらダメ」という禁止ではなく、飲食の回数を少なくする事を基本とします。

 

下の図をご覧下さい。

 

 

このグラフは、食事をしたときに、歯の周りについた汚れのpHを示しています。
上下のグラフとも中央付近に赤い横線がありますが、これより下(赤く塗りつぶした部分)は強い酸性のため、歯の表面が溶かされます。
これを脱灰といいます。

 

一方、赤線より上(青く塗りつぶした部分)は中性に近く、歯の表面が溶かされることはありません。
逆に溶け出た成分が歯に戻ることもあり、これを再石灰化と呼びます。

 

上下のグラフを見比べると、下のグラフに赤く塗りつぶした部分が多いことに気付かれると思います。
つまり、飲食回数が多いほど歯が酸にさらされるため、むし歯になる危険性が高まります。

 

子どもの栄養にとって間食は重要ではありますが、だらだら与えるのではなく、決められた時間に、決められた回数(出来れば1回く)与えるようにすることが大切です。
そして本来、間食は『子どもの成長にとって重要な4度目の食事』ですので、お菓子でない方が良いのです。
因みに、管理栄養士の幕内秀夫氏は、「子どものおやつはおにぎりにすべき」と言っておられます。

 

成人では、缶コーヒー・スポーツドリンク・ジュース・お菓子などの飲食により、歯垢のpHが酸性になり、むし歯になりやすくなります。
特に、大きめのペットボトル飲料を何回にも分けて飲む方は、歯垢が常に酸性の状態になるため、むし歯が多発します。

 

できれば、食後のデザートとして食べる(与える)方が良いでしょう。
また、上記唾液検査の結果リスクが高いと診断された方は、砂糖の入った食品を制限するべきです。

(ロ)歯周病予防のための食生活

歯周病の予防(治療)のための食生活は、むし歯の場合と異なり、様々なことを考慮していく必要があります。
歯周病を引きおこす細菌と適切に闘う「免疫」や、破壊された組織を修復する「治癒」が的確に行われる体にすることが、歯周病から体を守る重要なポイントとなります。
さくら総合歯科では、病気になりそうな状態を検索する装置を使って検査した後、健康な体を維持するために必要な食生活のアドバイスを行っています。

(b) 歯磨き指導

歯磨き指導は、予防にとって重要なポイントです。

むし歯を予防するためには、たとえフッ素を塗ったり、キシリトールを利用したとしても、最低限の歯磨きは必要です。
ただ、実はむし歯予防にとって歯磨きはさほど影響がないこともわかっています。
逆に、むし歯予防にとって最も重要なのは、食事の内容です。

 

仕上げ磨きの必要性

上に説明した通り、むし歯予防において歯磨きの有効性は、証明されていません。
ただ、食生活に問題がある場合は、親が歯磨きしてあげることは、必要と考えています。
特に重要なのが、奥に順番にはえてくる永久歯(大人の歯)。
お子様の場合、ご自分で歯磨きをさせることは、習慣づけにとって重要ですが、残念ながら充分な歯磨きは不可能です。
はえてきたばかりの歯は酸に弱く、むし歯になりやすいので、その歯だけでも保護者が毎日歯磨きをしてあげるとよいでしょう。
お母様が、下図のように必ず仕上げ磨きをしてあげてください。

 

歯周病(歯肉炎)の予防にとっては、むし歯予防と異なり歯磨きが重要です。
必ず歯磨き指導を受け、鏡を見ながら時間をかけて磨く必要があります。
しかも、歯ブラシのみを使用するのではなく、

 

・ デンタルフロス
・ 歯間ブラシ
・ 先のとがった小さな歯ブラシ(タフトブラシ)

 

なども使用する必要があります。

 

歯磨きの仕方はその方のお口の状況で変わりますので、ご来院の上ご相談下さい。

 

(4)キシリトール(Xylitol)の利用(C)

非う蝕誘発甘味料といわれるものは、細菌による酸の産生を引き起こさないばかりでなく、歯を守るのに重要な唾液の分泌を促します。
その中でもキシリトールは、むし歯予防にとって様々な役割を果たしてくれることがわかっています。

 

(a) キシリトールはどうやってむし歯の発生を防ぐのですか?
(ア) 微生物学的作用

・細菌により発酵されないため、キシリトールを食べても酸が産生されません
・細菌のエネルギー源として使用されないだけでなく、細菌の貯蔵エネルギーを消費させ、最近の成育を阻害します

 

(イ) 唾液の分泌促進による再石灰化(初期のむし歯が治ること)の促進

・キシリトールの甘味により唾液の量が多くなり、唾液の作用により再石灰化が促進されます
・重炭酸塩イオンという、酸を中和する作用のあるイオンの分泌と生成を刺激し、再石灰化を促進します

 

(ウ) 生物無機的(bioinorganic)作用

・カルシウムイオンの沈殿を阻止し、唾液中のカルシウムの量を維持することにより、歯にカルシウムが戻る事を促進します

 

(b) キシリトールの使用方法は?

各自のリスクに応じた処方を行います。
詳しくはご来院の上ご相談下さい。

(c) さくら総合歯科院長の、キシリトール体験記

院長のキシリトール体験記のページをご覧ください。

 

(5)フッ素(フッ化物)の利用(C)

(a) フッ化物はどのようにむし歯を予防するのでしょう
(ア) 脱灰の抑制・再石灰化の促進

溶けかけた歯の表面の修復を促進し、むし歯の進行を阻止します

(イ) 歯質の強化

・ハイドロキシアパタイトの結晶構造の安定化
・フルオロアパタイトの形成

 

この2つの作用により、歯を酸に溶かされにくくします

 

(ウ) 細菌の抑制

・細菌が産生する酵素の働きを阻害し、酸を産生しにくくします
・菌体内への糖の取込みの阻害します
・抗菌作用(発育の抑制)により、酸菌を減らします

 

(b) フッ素(フッ化物)の使用方法について

フッ化物応用法には、
 ・飲料水へのフッ化物添加をはじめとする全身的応用法
 ・フッ化物歯面塗布法
 ・フッ化物洗口法
 ・フッ化物配合歯磨き粉
 ・フッ化物の錠剤(海外)
 ・高濃度フッ化物バーニッシュ(海外)
などの局所応用法がありまが、わが国では主として局所的応用法が実施され、高いう蝕予防効果を上げています。

 

局所的応用法の中では、
 ・フッ化物歯面塗布法は歯科医師や歯科衛生士といった専門家が直接行うものとしてプロフェッショナルケア
 ・フッ化物洗口法は集団応用や個人応用が可能なもので公衆衛生的手段+ホームケア
 ・フッ化物配合歯磨き粉は個人が自由に入手できるものとして自己応用法、ホームケアあるいはパブリックケア
で行われるものです。

 

(ア) フッ化物歯面塗布法

歯科医師や歯科衛生士など専門家が直接、歯面にフッ化物溶液を塗布する方法です。
塗布した高濃度のフッ化物が歯面上にフッ化カルシウムを生成し、歯の表層がフッ素化アパタイトに変化することで歯の表面の酸に対する抵抗力が増します。

 

 

フッ化物歯面塗布法のむし歯予防効果については、約20%〜40%の効果が報告されています。

 

(イ) フッ化物洗口法

フッ化物洗口法は、用いる洗口液のフッ素濃度が低く、安全性が高くフッ化物洗口液の調製も簡単にできます。
低濃度フッ化物は、歯の表面のみならずお口の粘膜にも保持され、作用し続けます。
その結果、歯が溶ける(脱灰)のを抑え、再石灰化を促進させます。

 

また、このフッ化物洗口液を用いた洗口法は、誰もが簡単に苦痛なく実施できるので、より多くの対象(小児)に応用することが可能であり、公衆衛生上、むし歯予防を考える上で有意義な方法です。

 

むし歯抑制効果はフッ化物洗口法の実施方法、実施期間の違いにより差が見られますが、平均的に見て35%〜50%のむし歯抑制率が認められています。

 

(ウ) フッ化物配合歯磨き粉

最近の歯磨き粉には、多くの場合フッ化物が含まれています。
これを上手く利用すると、歯の強化に役立ちます。

 

歯磨きしたあとに、コップの底の方にほんの少しだけ水を入れ、その水を口に含んで数十秒ぶくぶくうがいをし、はき出します。
その後は一切ゆすがないようにすることにより、お口の中に有効な濃度のフッ素が残り、歯を強化します。

 

むし歯の抑制率は15〜20%です。

 

(c) フッ素の毒性について

急性毒性とは
急性中毒は、誤って一度に大量のフッ素を摂取した場合に限って起こります。
歯科医院で塗布する場合は急性中毒の起こる量をお口の中に塗布することはありません。
フッ素 齲蝕予防又、フッ素洗口を家庭で行う場合も、安全な量しかお渡ししませんので、通常は起こりません。

 

慢性毒性とは
慢性中毒は、ある濃度以上のフッ素を長時間取した場合に現れます。
飲料水にフッ素が添加されている場合に起こり得ますが、家庭でのフッ素洗口程度の量では起こりません。

 

(d) フッ素についてのQ&A
Q1:妊娠中の母親がフッ素を摂取しても胎児に悪影響はありませんか?また、母乳に対してはどうでしょうか?

A:水道水にフッ素を添加している地域でも、胎児に対す悪影響は認められていません。
また、死産や新生児の死亡率が増えるという報告もありません。
仮に、母親が誤って大量のフッ素を飲み込んだとしても、血液や胎盤を経由するうちに胎児に移行するフッ素は極少量になってしまいます。
その証拠に、胎児期に歯の形成が行われる乳歯には、出生後に形成される永久歯に比べてフッ素症歯は現れにくいことがわかっています。
また、母親が摂取するフッ素のほんのわずかしか母乳に移行しませんから、母乳による乳児への影響はありません。
むしろ、母乳保育中の乳児は、フッ素が不足しがちであると言えます。

 

Q2:フッ素はガンの原因になると聞きましたが?

A:現在では、アメリカ国立ガン研究所をはじめとする専門機関から、水道水フッ素添加をはじめとする各種フッ化物利用法とガンの発生とは無関係であることが示されていす。

 

Q3:フッ素は大人に有効でないと聞きましたが本当ですか?

A:お子様程ではありませんが有効です。
大人の歯は子どもの歯に比べてエナメル質は成熟し、ある程度強くなっていますが、歯周病により歯槽骨が吸収され歯肉が退縮すると、セメント質や象牙質が露出し、歯の根の部分のむし歯が発生しやすくなります。
また詰め物や入れ歯の周りにむし歯が発生したり、二次齲蝕(なおした部分が再びむし歯になること)も増加してきます。
フッ素はこのようなむし歯予防にも効果があることが確認されています。

 

このようなことから、大人に対してもフッ化物応用は有効であり、最近では大人用の歯磨き粉にもフッ化物配合のものが増えていています。

 

Q4:なぜ日本では欧米諸国に比べてフッ素利用の普及が進んでいないのでしょうか?

A:歯科の専門家である歯科医師・歯科衛生士が必ずしも十分にフッ素利用の価値・有用性をアピールしてこなかったために、国民の間に十分周知されていないことが最大の理由と言えます。

 

Q5: 吸収されたフッ素はどうなるのでしょう?

A:成人では吸収されたフッ素の90%以上が主として尿中に排泄されます。
小児の場合は60〜70%以上が排泄されると考えられています。

 

(6)PMTC・PSC(C・P)

プロが徹底的に歯の汚れを落とすことにより、普段どうしても磨けない部分の細菌を取り除きます。
PMTCを行うことにより、お口の中にいた歯周病悪玉菌が大幅に減少し、善玉菌に入れ替わることによりお口の健康を保ちます。

 

歯周病悪玉菌は(歯周病が軽症の場合)約3ヶ月で復活してきます。
したがって3ヶ月に一度の間隔で、行うのがよいとされています。
但し、重症の場合は2週間に1度がよいとされています。
この方法は北欧で考案され、素晴らしい効果があることが実証されています。
しかし残念ながら、日本では誤った方法で行う医院が増えてきていることが、歯周病治療に熱心に取り組む歯科医の間で憂慮されています。

 

本来PMTCは、むし歯や歯周病のリスクの高い部分についてのみ徹底的にクリーニングを行います。
しかし、リスクの低い場所は触る必要がありません。
つまり、前歯などの着色を毎度毎度除去することは、歯の表面を少しずつ削り続ける事になり、歯を長持ちさせるためには逆効果です。
この件に関しては、本当のPMTCのページもご覧下さい。

 

通常『PMTC』というのは歯ぐきから上の部分を主体に行いますが、歯ぐきの下に隠れている部分の清掃がより重要です。
これを『PSC』といったり、『縁下デブライドメント』と呼びます。

 

(7)3DS(C・P)

PMTCを行ったあとも、歯の表面を電子顕微鏡で見るとたくさんの細菌が残っています。

3DSとは、PMTCを行った直後、更に各個人の歯にあった『ドラッグリテイナー』と呼ばれる物を使い、その中に消毒薬を流し込んで上下の歯に装着して、歯の表面から更に細菌を大幅に減少させる方法です。

 

徹底的に細菌のバリアを除去してからでなければ、薬液が細菌に到達しないので、上記PMTCを徹底的に行ったあとでなくては、効果があまりありません。

 

この方法はむし歯菌や歯周病菌の減少に役立つだけでなく、お口の中の細菌の血管内への侵入も防いでくれることがわかってきました。
歯周病菌の血管内侵入は全身に悪影響を及ぼします。
この件の詳細は、歯周病と基本治療のページ3DSのページをご覧下さい。

 

お子様への3DSは可能ではありますが、乳歯から永久歯に生え替わるたびにドラッグリテイナーを作り直す必要があり、現実的にはあまり合わない状態のドラッグレイテイナーを使用することになるので、効果が不十分である可能性があります。
ただ、当院で過去に、むし歯が多発していたお子様に合わないトレーながら根気よく3DSを継続したことにより、高校生になった頃には永久歯にむし歯のない状態になった実績はあります。

 

(8)CCP-ACP(リカルデント)

リカルデントとは、メルボルン大学のレイノルズ教授らのグループによって開発された、牛乳由来タンパク質の分解物であるカゼインホスホペプチド(CPP)と、非結晶性リン酸カルシウム(ACP)の複合体です。

 

リカルデントは、カルシウムとリンを過飽和状態で口腔内に供給します。

 

 

初期むし歯は、唾液中のカルシウムやリンによって修復されます。
リカルデントは、唾液よりはるかに多くのカルシウムやリンを含むので、より強い初期むし歯修復作用(再石灰化)を有します。

 

具体的には、 リカルデントを含んだペーストを歯に塗りつけて使用します。

 

(9)プロバイオティクス

乳酸菌が腸内環境を整え、免疫力アップにつながることは、多くの方がご存じだと思います。
しかしそれだけではなく、お口の中に存在するむし歯菌・歯周病菌及びその毒素を抑制する特殊な乳酸菌が製品化されています。
下グラフはその効果の一例です。

 

 

むし歯菌(ミュータンス菌)の多い方が使用することにより、むし歯菌を減少させることができると考えられています。
また、一部歯周病菌の発育も抑制できることがわかっています。

 

詳しくは口腔内科のページをご覧ください。

 

その他にも、口臭抑制に役立つ別の乳酸菌(サリバリウスK12)も製品化されています。
この乳酸菌については、ほんだ式口臭外来のページをご覧ください。

6.歯ならび・かみ合わせ異常の予防

歯ならび・かみ合わせが悪くなるのは、

 

・ 口を開いて口で呼吸する
・ 舌の機能異常
・ 噛む回数が少なくなった
・ 悪いくせ(頬杖・うつ伏せ寝など)

 

などが原因であるといわれています。
噛む回数を増やす工夫・癖を直すことは、保護者が真剣に取り組めば、簡単な指導で改善出来ます。
しかし、口呼吸と舌の異常は、専門家に繰り返し指導を受けながら訓練しなければ、なかなか改善出来ません。
もちろん、保護者の弛まぬ努力も必須です。
ただ、幼少期の訓練は難しいので、比較的簡単に唇と舌の訓練が可能となる

 

「Infant」

 

と言う装置を使用すると、歯ならび等の異常が起こる確率を事前に減少させることが可能です。

 

歯ならびを気にして来院された保護者の方に、

 

『歯ならびが悪くなる理由はわかりますか?』

 

と尋ねると、多くの方は

 

『噛む回数が少なくなった』
『硬いものを噛まなくなった』

 

ことが原因と答えられます。
確かにそれも大きな原因の一つです。
しかし近年、それ以外の理由で歯ならびが悪くなったり、顎の発育が悪くなることが強調されるようになってきました。
以下に、歯ならび・かみ合わせ異常の原因について説明します。

 

(1) 口呼吸

普段口を開いて、口で呼吸していると、歯ならび・かみ合わせが悪くなります。
当院に矯正治療で来院されるお子様は、殆どが口を閉じていません。

 

口を閉じて鼻で呼吸することは、歯ならび・かみ合わせを正常に導くためのみならず、お子様が人生を健康で過ごすためにも重要です。

 

口呼吸例えば、鼻で呼吸することにより脳は冷やされます。
逆に口で呼吸していると脳が十分に冷やされず、脳の活動が低下し知能に影響する場合があるのではないか、と言われています。
また、口で呼吸していることにより、身長や精神状態も左右されると言われています。

 

更に、口で呼吸していると、アトピーやリウマチ、IgA腎症など、アレルギー性の病気を誘発することもわかってきました。
実際、当院でも矯正治療の目的で来院されているアトピーの患者さんが、鼻で呼吸するようにしたところ、アトピーが治り大きく腫れていた扁桃も正常になりました。

 

口呼吸

 

このページをご覧になっているお父様・お母様、もしお子様が口をぽかんと開いていたら、要注意です。

 

(2) 舌の機能異常

人間の舌は、安静にしているとき上あごにくっついているのが正常と言われています。
ところが、矯正治療に訪れる多くのお子様は、この舌が宙ぶらりんになっていたり、下に落ち込んでいます。

 

上あごの歯ならびは、正常な位置にある舌によって押し広げられます。
舌が正しい位置にないと、上あごは十分発育せず、歯ならびは悪くなります。

 

更に、舌が低い位置にあると、下あごに付着している筋肉の力により下あごの成長が妨げられます。

 

上下のあごは本来前下方に成長していくべきなのですが、舌の位置異常の結果前方への成長が阻害されあごは下方にのみ成長し、顔が長くなってしまいます。

 

また、ものを飲み込むとき、舌は上あごに押しつけられるのが正常です。
ところが、矯正治療の必要な患者さんの多くは、舌が飲み込むときに前に出ます。
その結果、かみ合わせが悪くなります。

 

(3) 噛む回数が少ない

現代人は、昭和初期に比べて噛む回数が半分になったと言われています。
これは食材の軟化と共に、清涼飲料水の影響が大きいと言われています。
噛む回数が少なければ、顎は発育が不十分となり、その結果歯ならびが悪くなります。

 

(4) 癖(くせ)

横向き寝、頬杖、唇の癖(巻き込んだりとがらせたり)によって歯が押されて移動・傾斜し、その結果歯ならびが悪くなります。

 

(5) その他

・ 乳歯が早く抜けてしまった(抜いた)
・ 永久歯が大きい
・ 歯の形や数の異常

 

などによっても歯ならびは影響を受けます。

 

7.歯根破折の予防(歯ぎしりの影響の防止)

歯根破折(歯の根が真っ二つに割れること)は、ある日突然起こります。
むし歯や歯周病と異なり、神経を取ってしまった歯の破折を確率高く予防することは不可能です。

 

歯根破折の最大の原因は『歯ぎしり』であることが分かっています。

 

(1)歯ぎしりの影響を減らす

したがって、この歯ぎしりの影響を少なくすることが、全ての歯に対して歯根破折を予防する最良の方法と言えます。
歯ぎしりを全くしない人はいない、と言われています。
そして、皆様の想像を遙かに超えるダメージを、歯や歯周組織に与えます。
ただ、残念ながら歯ぎしりを止めることはできません。
歯ぎしりについては「歯科の基礎知識のページ」の歯ぎしりの項をご覧下さい。
そこで、歯ぎしりの悪影響を少なくするために、ナイトガードを作成します。
作成の手順は、以下の通りです。

 

(1) すべての歯の型を取る
(2) 咬み合わせを取る
(3) 作成したナイトガードを装着する

 

ナイトガードは、多くの場合上あごに装着します。
材質には色々なものがありますが、当院では軟らかくて薄めのものを使用しています。
硬めのものやぶ厚く軟らかいものを咬み合わせを時間をかけて調整せずに装着している例が散見されますが、この場合下の歯に無理な力がかかり、逆に副作用を生じる場合があります。
場合によってはあごの関節に異常を来す顎関節症になってしまうことがありますので、当院では使用しなくなりました。

 

(2)歯ぎしりを減らす

歯ぎしりをなくす方法は、現在のところわかっていません。
しかし、歯ぎしりを起こす原因は、ある程度わかっています。

 

(a)歯ぎしりを起こす原因
(ア)呼吸の問題(睡眠障害)

今小児歯科界を中心に問題になっているのが、睡眠障害。
顎の発達が悪い現代の子ども達は、呼吸にも問題を抱えていることが多く、中高年になったとき睡眠時無呼吸になる国民が増えることが懸念されています。
ただ、無呼吸が起こっていない段階でも、呼吸に問題があると熟睡できず、『寝起きが悪い』『日中の睡魔』などの他、歯ぎしりが増えることがわかっています。

(イ)反応性低血糖

血糖値の上下動の大きい食習慣は、夜間の低血糖を招きます。
血糖値が低くなると交感神経が緊張するので、歯ぎしりが誘発されると考えられています。

(ウ)ストレス

ストレスは交感神経の緊張を招き、その結果歯ぎしりが誘発されます。

 

(b)歯ぎしりを減らすには?

呼吸に問題を抱える子ども達に対しては、顎が成長している乳幼児〜学童期にあごの成長を促す歯ならび治療を行うことが必要です。
さらに、舌癒着症と呼ばれる状態が認められる場合は、その手術を行うと改善される可能性があります。
他には、血糖値の変動の少ない食生活を心懸けること、ストレスを和らげる時間を作ることも、歯ぎしりを減らすことにつながります。

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