私(さくら総合歯科院長)の、精密なこだわりの入れ歯

 

私は入れ歯で有名な様々な先生の本を読んだり、講演を聞きに行き、それを治療に取り入れてきました。
入れ歯は歯科治療の中でも最も職人的な仕事で、しかも 「この方法であれば絶対大丈夫」という方法がありません。

 

私は勤務医時代から自分で高い材料を購入し、通常保険診療では行われないような色々な方法を、保険の入れ歯で行いながら技術を高めてきました。

 

その結果、ほぼすべての患者さんに対し、与えられた条件下で最高の入れ歯を作ることが出来るようになりました。

 

その一例として、97歳で他界した私の祖母の入れ歯についてお話ししたいと思います。   

 

祖母は、食事に不自由することなく97歳の生涯を閉じることが出来ました。

 

 

1.はじめて作った入れ歯

(1) とりあえず作りました

私が最初に祖母の入れ歯を作ったのは、大学を出て3年目でした。
当時からまじめな治療を心懸けてはいましたが、何分経験不足で、特に入れ歯は試行錯誤の毎日でした。

 

私の祖母が、入れ歯の調子が悪くなり、作り直す事になりました。
私の祖母はおがくずを固めた人形作りを趣味としており、芸術的感覚の秀でた人でした。
作った人形は数々の賞を受賞し、三重県知事賞を戴いたことさえありました。

 

 

そんな祖母ですから、顔つきの変化には大変敏感でした。
祖母は左の前歯を先に抜いたため、左側の骨の吸収が大きく、入れ歯を入れない状態では顔の左側がくぼみ、唇が斜になり、しかも左側に深いしわが出来る状態でした。

 

まず、標準的な作り方をして入れ歯を入れてみました。
顔のくぼみ等はなくなり、普通の患者さんなら満足していただける状態になったのですが、祖母はそれでも不満でした。

 

・ 唇が少し左下がりになる。            
・ 上唇のふくらみが、左右で異なる。      
・ 鼻から斜にあるしわの深さが左右で異なる。

 

と訴えました。

 

確かによく見ると、祖母の言うとおりでした。
祖母は人形は、市販の人形より大変優しい顔をしており、顔の表情を作成する才能はずば抜けたものがありました。
だからこそ自分の顔の僅かな変化にもこだわっていたのでしょう。

 

 

(2)その後修正しました

総入れ歯総入れ歯そこで入れ歯を修正することにしました。
入れ歯のと唇の間に小さな綿を入れ、大きさや厚み・位置を色々変えて顔の変化を観察しました。

 

試行錯誤の上、ようやく顔のバランスがよい綿の位置・厚みを見つけだし、その部分の入れ歯の材質そのものを厚くしました。

 

その結果バランスのよい顔、口元のしわの少ない顔になり、祖母も満足していました。

 

2.作った入れ歯が壊れました

最初の入れ歯は保険の材料で作りました。
ところが、数年後に上の入れ歯の、歯にかける針金の部分が折れてしまいました。
上の歯は右奥に2本しか歯が残っておらず、噛む度に針金に無理な力がかかり、金属疲労を起こして折れてしまったのです。

 

保険の入れ歯は構造的に支えに使っている歯や針金に無理な力がかかり、針金が折れたり、場合によっては自分の歯そのものが弱ってしまうのです。

 

3.極限までこだわった入れ歯の作成

そこで、今度は徹底的にこだわって入れ歯を作り直すことにしました。
その頃私は、入れ歯で有名な多くの先生の作り方を勉強し、実践しておりましたので、その知識を総動員して入れ歯を作りました。

 

(1) こだわりその1

入れ歯を長期間使用していると、歯がすり減ってかみ合わせが低くなります。
そこでまず、今まで使っていた入れ歯を改造し、かみ合わせの高さを元に戻しました。

 

(2) こだわりその2・・・徹底した型取り

お口の中にピッタリ合う入れ歯を作るためには、正確な型をとる必要があります。

 

そのために、まずお口にあった型をとる道具を作りました。
次に、それを使って、上下各々30分から1時間かけて型をとりました。

 

入れ歯の型は、時間をかけなければ絶対によい型は取れません。

 

(3) こだわりその3・・・徹底したかみ合わせ

入れ歯のかみ合わせも、慎重にに時間をかけてとってゆきます。

 

(4) こだわりその4・・・あごの運動を、三次元的に記録します

ここからが私の真骨頂です。
患者さんのあごの動きは個人個人で大きく異なります。
しかし入れ歯の歯は既製品で、その方のお口の動きに合った形をしていることはまずありません。

 

たとえば、服を買うときのことを考えてみてください。
「標準体型」の方であれば、既製品でもほぼピッタリ合うでしょう。
しかし、お口の中は、この「標準体型」というものが存在しないと言っていいくらい、人によってばらばらです。

 

そこに既製品を無理矢理使ったところで、快適に噛めるはずがないのです。

 

そこで、あごの運動を三次元的に記録しました。
この方法は、ある講習会を受講した者しか知らない方法で、万が一知っていても特殊な器具を入手できないので、殆どの歯科医院では行えない方法です。

 

記録したあごの動きに、歯の形を時間をかけて合わせることにより、食事を食べるときに大変安定した入れ歯を作ることが可能になります。

 

(5) こだわりその5・・・頬と舌の力が均等に加わるように歯を並べる

お子様の歯がはえるとき、あごの大きさが充分であれば綺麗に並びます。
どうして綺麗に並ぶのでしょう?

 

はえはじめたときは、少しゆがんではえてくる場合が結構多いのですが、ほっぺたや唇からかかる力と、ベロからかかる力が同じになる場所へ自然に移動し、綺麗に並ぶのです。

 

では、入れ歯の歯は一般的にどのように並べるのでしょう。
実は殆どの場合、土台となる歯ぐきの形を参考に並べられます。

 

しかし、これではベロやほっぺたの近くに偏って並べてしまう可能性が高くなります。
特に入れ歯を入れている方は、歯を失った段階でベロが広がる傾向にあり、このことを考慮に入れて歯を並べないと、ベロ押されて入れ歯が浮き上がってしまします。

 

歯が残っていればそれを支えにしますので、浮き上がることはありませんが、残った歯に無理な力がかかるため、その歯の寿命は大幅に縮まります。

 

こういうことまで考えて入れ歯を作っている歯医者は残念ながら多くはありません。
しかし、本当は大変重要なことなのです。

 

今回の入れ歯も、ほっぺたとベロの力が均等に加わる位置に並べました。

 

(6) こだわりその6・・・超精密重合

せっかくこだわって作っている入れ歯でも、肝心の材料が変形しては、全てが台無しになってしまします。

 

入れ歯の土手の部分(ピンク色の部分:床(しょう)といいます)は、粉と液を混ぜてから固めて作ります(これを「重合」といいます)。
この、固まってゆく段階で実は大きく変形します。

 

保険の入れ歯は、ほぼすべてがこの方法で作られますので、ピッタリ合う入れ歯を作ることは不可能です。

 

しかし、技工料は高くなりますが変形が殆ど起こらない方法(超精密重合)があり、今回それを使って土手の部分を作りました。

 

(7) こだわりその7・・・入れ歯をお口の中に入れてから

総入れ歯総入れ歯入れ歯は軟らかい粘膜の上に乗っかるだけですので、かみ合わせを摂るときに位置ずれを起こします。
したがってどんなに精密に作った入れ歯でも、かみ合わせが完璧になることがありません。

 

実際お口の中に入れてから、細かいかみ合わせを合わせていきます。

 

軽く噛んでもぎゅっと噛んでもずれのない状態に合わせてゆきますので、残っている歯や土手になる粘膜、更にその下の骨に無理な力がかからなくなり、長期間よく噛める入れ歯になります。

 

この入れ歯によって、祖母は何でも大変よく噛めるようになりました。

 

 

終わりに

祖母は、2年ほど前97年の長きにわたる生涯を閉じました。
最晩年は骨折して、外に出かけることはなくなりましたが、食べることだけは何不自由なく過ごすことが出来ました。

 

仕事の忙しさから祖母孝行はあまり出来ませんでしたが、色々お世話になったせめてもの恩返しが出来たのではないかと思っています。