2.歯周病とはどんな病気?

お口の中に存在するある種の細菌が、歯の周りの構造(歯周組織)を破壊してゆくことにより、歯を支えることが出来なくなって、やがて抜けてしまう病気です。
日本では40歳以上の成人の80%以上がかかっていると言われています。

 

歯周病の進行

 

歯周病進行のイメージ映像(動画)はこちら(要 WindowMediaPlayer7 以上):あくまでイメージです。)

 

歯周病は『慢性の病気』です。慢性とは、長年にわたり、ゆっくりと進行する状態を言います。
慢性の病気は、多くの場合よっぽどひどくならない限り、症状がありません。

 

歯周病にかかっていることに気付くのは、殆どの場合重症か末期になってからです。
その場合、症状のある歯は助けることが出来ないか、助けることが出来たとしても、多くの場合手術が必要です。
他の無症状の歯も、多くは歯周病がある程度進行しています。
そうなってから長持ちしやすい状態にするのは、長年歯周病の治療に真剣に取り組んできた、治療経験の多い歯科医師でも大変です。

 

歯周病は、『年寄りの病気』ではありません。多くの方は、若い頃から徐々に進行しています。
したがって、症状のない、若い頃から治療しておくことが重要です。

(1) 歯周病の主な症状

歯周病は『沈黙の疾患』とも呼ばれ、強い症状がなく進行します。
しかも重症になると治せなくなる場合があるので、少しでも何らかの症状を感じたら、きちんと歯周病を治せる歯科医院で検査・治療を受けるべきです。
歯周病の主な症状
・ 歯ぐきが赤く腫れている。
・ 朝起きた時、口の中がネバネバする。
・ 歯を磨いた時、硬いものを食べた時に血が出る。
・ 歯ぐきがむずがゆい、又は痛い。
・ 口臭が気になる。
・ 硬い物が噛みにくい、又は噛むと痛い。
・ 歯がぐらぐらする。
・ 歯が長くなった。
・ 歯と歯の間の隙間が大きくなった。

 

これらの症状のうち、一つでも該当するものがあれば、歯周病が疑われます。
ただ、これらの症状がなくても、歯周病が始まっている場合も多いので、注意が必要です。
正確に診断するには、歯周病治療に熱心な歯科医院で検査を受ける必要があります。

(2) 歯周病の原因は?

歯周病は細菌バイオフィルムのしわざ

歯周病は、歯に付着している『細菌バイオフィルム』によって惹き起こされます。
細菌バイオフィルムとは、簡単に言えば歯にこびりついた細菌の塊で、歯磨きで完全に除去することはできません。
色が歯の色に近い白っぽい色をしているので、きたない細菌が歯に付着していることに、なかなか気付きません。

 

歯周病原因

 

今、爪楊枝で歯の間の汚れを軽く取ってっみてください。
爪楊枝の先っぽには白いネバネバの汚れがついてきたはずです。
実はそれだけの量に、億単位の細菌が含まれています。

 

健康な人の歯と歯ぐきの境目の隙間には、約1000個程度の細菌が生息しています。
ところが、歯周病となった歯と歯ぐきの境目の隙間には、1000万個以上もの細菌が存在します。

 

一方、お口の中には約800種類もの細菌が生存可能です。
健康な人のお口場合、このうち約150種類が住みついていると考えられています。
まだまだ未知の細菌が存在すると考えられています。

歯周病の悪玉菌:red complex(レッド・コンプレックス)

上記800種類の細菌の中の一部が、虫歯や歯周病の原因になります。
その中でも、

 

Porphyromonas gingivalis (P.g)
Tannerella forsythia (T.f)
Treponema denticola (T.d)

 

が特に歯周病を悪化させる原因となる細菌といわれおり、この3つを “red complex” と呼んでいます。

 

中でもP.g菌が最も代表的な歯周病原因菌と言われており、様々な研究が行われています。

P.gingivalis菌の線毛の型による分類

P.gingivalis菌の外側には、タンパク質が結合してできた繊維状の構造が存在し、それを線毛(せんもう)と呼びます。
その線毛にはfimAとMfalという2種類が存在し、そのうちfimA線毛のタンパク質には6つの型があることがわかってきました。

 

T :直毛型
Tb :束毛型
U :パンチパーマ型
V :剛毛型
W :スキンヘッド型
X :うぶ毛型

 

線毛の型別の歯周病発症リスクは、
U>>W>Tb>V>X>T
であり、U型がずば抜けて病原性が高いことがわかっています。

P.gingivalis U型は・・・

正常者にも2%に見られます。
歯周病患者では、59%に存在します。
重度歯周病患者では、90%以上に存在します。

P.gingivalis菌と真菌の関係

『歯周病菌のP.gingivalis菌が、カンジダ菌と呼ばれる真菌(カビ)の影響により歯の周囲の細胞への侵入が増強される』、との論文が奥羽大学の玉井准教授により発表されました。
つまり、歯周病の進行に真菌が関与している可能性があることが示されました。(この件に関しては、歯周病の内科治療に詳しく述べてあります。)

キーストーン病原体仮説

キーストーン病原体とは、少ない数であっても免疫システムを阻害することにより、他の無害であった細菌叢のバランスを変化させ、それを病原性のある状態に転換させる働きをしている病原体(細菌)のことをいいます。
上に述べた代表的な歯周病菌:P.gingivalis菌は、実は単独では歯周病を引きおこすことができません。
しかし、この菌は白血球の機能を障害することにより免疫を操作し、他の細菌を爆発的に増加させ、それにより歯周病を引きおこすと考えられるようになってきました。

口腔のキーストーン病原体による腸管への悪影響
ディスバイオーシス(腸内フローラの異常)で腸管に影響が起こる

口腔内の細菌が腸管に到達すると、腸内の細菌バランスの異常(ディスバイオーシス)を引きおこすことがわかってきました。
なかでも、P.gingivalis、S.mutans、Klebsiella pneumoniae、F.nucleatum は腸管の健康に影響を及ぼします。
これらの菌のうち、P.gingivalis、S.mutans、F.nucleatumは3DSという特殊な処置で除菌できることがわかっています。

P.gingivalisは腸管細菌の細菌叢を変える

歯周病を放置しておくと口腔内の細菌の影響で腸内細菌叢のバランスが崩れ、全身の健康に悪い影響を与える細菌が増えてくることがわかっています。

歯周病のもう一つの側面、生活習慣病

バイ菌が感染すれば皆ひどい歯周病になるかといえば、そうではありません。
また、各個人に於いても、全ての歯が同じように歯周病が進行するわけではありません。
たとえば、歯周病菌に抵抗するための免疫力は生活習慣に影響を受けます。
その他にも、 歯周病を加速・悪化させる要因は数多くあります。
それが歯周病の治療を難しくしている要因です。

(3)歯周病を悪化させる要因は?

歯周病の原因の除去は、通常は日本歯周病学会の策定したガイドラインに沿って行われています。
また、一部の歯科医師はガイドラインに定められていない抗菌剤や抗真菌剤を使用しています。

 

ところが、これらの方法で治療しても、歯周病が治るとは限りません。
特に重症の歯周病はその傾向が強く、他の歯科医院で治療したものの治らない、と訴えて当院に来院される患者様が多数おられることからも、通常の治療のみでは不十分であることがわかります。

 

重度歯周病を安定した状態に改善するには、ガイドラインに明記されていない様々な歯周病悪化要因にも対応する必要があります。

(a)免疫力の低下

歯周病の原因は、上に述べたように細菌です。
ですから、お口の中の細菌を完全に駆逐し、無菌状態にできれば理論上歯周病は起こりません。

 

ところが、残念ながらどんなに時間をかけて歯磨きしても、或いは歯科医院に行ってクリーニングを受けても、かなりの数の細菌がお口の中に残ります。
しかし、その人の免疫で対応できるだけの数に細菌を減らしさえすれば、歯周病は発症しません。
免疫力は個人差が大変大きく、また、同じ人でも様々な要因で免疫力は低下します。

 

免疫力を左右する因子の例として、

 

・ ストレス
・ 食生活
・ 腸内環境
・ 口呼吸
・ 糖尿病
・ 体調

 

などがあげられます。
免疫
例えば、秋口に歯ぐきが腫れて来院される患者様が、多発します。
これは、夏バテで体が弱っているところに、朝の急な冷え込みが重なり、風邪気味になることにより免疫力が低下することが原因です。

 

このことから、免疫力が歯周病の発症・進行に大きく関わっていることがおわかりいただけると思います。
免疫力低下に対する対応については、歯周病の内科治療のページをご覧ください。

(b)かみ合わせ

現在、かみ合わせが歯周病の原因ではないものの、歯周病の進行速度を左右する因子であると、考えられています。

 

かみ合わせが悪いと歯に無理な力がかかります。
この無理な力は歯周病の進行速度を極端に早めます。
かみ合わせは、

 

・ 先天的な要因によるもの・・・遺伝
・ 後天的な要因によるもの・・・成長期の食生活・くせ(態癖)・歯科治療(矯正を含む)・生活習慣

 

などの影響を受けます。
ほとんどの歯が何ともないのに、かみ合わせの悪い歯だけが重症の歯周病になっている方は、決して珍しくはありません。

(c)喫煙

喫煙は、歯周病にとって大敵です。
喫煙者の歯周病のリスクが5倍に、受動喫煙でも3倍になります。
たばこを吸っている方の歯周病を治すことは、極めて困難です。
ある著名な先生は

 

『歯周病の治療は禁煙指導から』

 

と仰っておられました。
近年禁煙の成功率が高い薬が発売されました。
禁煙外来を行っている内科等に相談されることをお勧めいたします。

※加熱式タバコ・電子タバコの影響
加熱式タバコ
従来のタバコが燃焼時600〜800℃に達するのに対し、加熱式タバコは高温加熱型で240〜350℃、低温加熱型では40℃でタバコ葉を加熱し、ニコチンを揮発させて吸入させます。

加熱式タバコに関する研究は、販売メーカー以外に研究がないのが現状です。
その研究では、

 

・ 歯ぐきの細胞を培養したものに、加熱式タバコのエアロゾルを曝露したものと、如何なる刺激も与えないものとを比較すると、加熱式タバコのエアロゾルには酸化ストレスや炎症の指標を増加させた

 

という結果が得られたそうです。
したがって、加熱式といえども歯ぐきに悪影響を及ぼすことが考えられます。

電子タバコ
電子タバコは、グリセロールやプロピレングリコールを基剤とし、香料・添加物・ニコチンを含む充填液を気化してエアロゾルを発生させ、それを吸引する方式のタバコのことを言います。

 

・ 電子タバコの充填液は、ヒトの歯ぐきや歯根膜の細胞生存率を低下させたり、炎症反応やDNA損傷を引き起こす。
・ ニコチン非含有電子タバコも、無刺激の細胞と比べると、ヒトの歯ぐきの細胞に対して影響を及ぼす。
・ 非喫煙者より電子タバコ利用者の方が歯周ポケットが有意に深かった。

 

などの研究があり、たとえ加熱式・電子タバコといえども歯周病の増悪因子になるので、歯周病治療を行う前提として、これらをやめることが必要です。